漢方をやっていくうえで、一番重要で大切なのは、漢方処方の原料である「生薬」であると言えます。
どんな漢方の名医が処方しても、肝心の原料である生薬が良いものでないと効果を正しく判定することは出来ません。
処方内容が悪いのか、原料が悪いのかが判断できないからです。
ただ、生薬の世界は、理論も、加工も、利用も、流通も… とてもとても複雑で奥が深い世界です。
その理由は、天然由来の成分がほとんどであるということです。
特に植物などについては、その生薬が育った場所、気候、土壌の状態、などによっても、同じ植物でもかなりのバラツキが生まれます。
化学合成して特定の成分を作りだす化学薬品とは勝手が違います。
そしてさらに、長い長い東洋医学の歴史の中で、さまざまな試行錯誤を繰り返してきた方法論と、西洋医学のエビデンスとの関係が難しいということもあげられます。
東洋医学の歴史は奥が深く、西洋医学的な理論で解明できない部分もまだまだ沢山あるからです。
お恥ずかしながら私たちも、これらの奥が深い生薬の世界はまだまだ勉強不足です。
今後ともこの生薬についてはもっともっと勉強を重ねていく必要のある大切な分野です。
生薬といいますと、なんとなく漢方薬の原料というイメージがあるかと思います。
そして植物などはもちろんのこと、中には動物であったり、なんと鉱物などであったりもします。
このあたりが東洋医学の歴史と経験論の積み重ねの奥深さです。
それらの生薬は、そのまま利用する場合もありますし、加工したりする場合があります。
切断してみたり、乾燥させてみたり、きざんでみたり、砕いてみたりという簡単な加工をする場合や、蒸してみたり、熱を加えてみたりなど…特殊な加工をする場合があります。
これらの加工のことを「修治(しゅうち)」と呼びます。
一般的には、生薬を採ってきて、洗って、乾燥させたあとの工程の作業のことを修治と呼んだりします。東洋医学の先進国である中国や台湾などの国では、これらの「修治」(炮製などと呼ばれています)の加工が歴史的な経験論に加えて、新たな技術においても、とても研究されて臨床データなども構築されており、実際の生薬にも活かされています。
私たちも実際に中国や台湾の製薬メーカーさんなどの生薬加工工場を見学させていただき実際に感じた部分であります。
私たち一般の小売店をはじめ、日本の東洋医学全般的にこれらの修治の分野はまだまだ研究すべきであると、様々な東洋医学に精通した方々は指摘しています。
今後、教育の分野などでも東洋医学先進国に学んでいく必要があると痛感しています。
先述いたしましたが、天然の生薬は、育った場所の環境、気温、湿度、日照条件、そしてなにより土壌の成分や性質、さらには成長した年月などによって、同じ種類であっても、大きく含有成分が違うものとなっていきます。
例えば、その国のその地域の土壌にしか含まれない様々な微量のミネラルがとても重要であったりするわけです。
しかも、違う地域ではその生薬がうまく育たないケースも数多くみうけられます。残念ながら、日本の気候と土壌ではうまく育たない場合が多いのです。
あと、近年問題になってきているのが、生産者の農家が使用する農薬などの問題です。
国営で厳しく管理されている農場とそうでない農場と様々ですが、これらも世界的に今後の方策が練られている大切な分野です。
あとは、農家がどの生薬を作るのか?という部分にも大きな問題があります。
生産農家はやはり売れる生薬をつくりたいのですが、それによって価格が急変し、生産をやめてしまったりする場合があります。そういった動向によって、世界的に不足する生薬が出てきて、値段が高騰したりすることもあります。
現に2014年の現在は、世界的に人参の価格が急激に高騰している現状があります。
さらに、ある特定の地域にしか育たない希少な生薬などは、当然高価になります。乱獲されたり、その後のことが考えられていないと、その生薬が絶滅してしまう危険性もあります。
生薬は、ある意味、「限られた資源」なのかもしれません。
さて、そんな生薬ですが、同じ生薬でも使用する部位によって効能が大きく変わってきます。
例えば、私たちが日常で食べたりする果物であっても、食べる部分によって味や甘さが違ったりしますよね。
それと同じで、同じ生薬であっても、例えば 実を使う生薬であったら、根っこの先っぽと、真ん中の部分とでは含有成分が大きく違ったりします。
これには、成分をしっかり分析したり、厳選することがとても重要なのです。
あとは、修治です。同じ生薬も加工によって薬効がまったく異なってきます。
たとえば、日本の漢方薬にもとても沢山使われている生姜(ショウキョウ)なども、その加工方法によって、生姜と乾姜とにわけられています。(これは日本漢方の分類です)もちろん効果も使用する対象も違ってきます。
品質のよい生薬にこだわるメーカーさんなどは、このあたりにまでこだわって原料を厳選しています。とてもとても大変なことであることを、みなさまにも少しでも知っていたけたら幸いです。
私たちも、信頼のおけるメーカーさんの生薬を取り扱いたいと切に願っていますが、私たち自身も、もっともっと勉強して生薬を見分ける目を養わなくてはならないと考えています。
西洋医学的な考え方は、その「症状」に注目します。そして、漢方的な考え方 は、その「原因」に注目します。
この注目点の違いが漢方と西洋医学の違いの一つであります。
漢方では、その方の体質を細かく判断するための「証(しょう)」というものさしで考え、この証に注目します。大きく分類すると漢方では陰(いん)・陽(よう)・虚(きょ)・実(じつ)、気(き)・血(けつ)・水(すい)の組み合わせで証をみていきます。
漢方処方の原料である「生薬」。どんな漢方の名医が処方しても、肝心の原料である生薬が良いものでないと効果を正しく判定することは出来ません。処方内容が悪いのか、原料が悪いのかが判断できないからです。
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